農的生活学校 屋代村塾
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屋代村塾五右衛門館 開館にあたって
  屋代村塾は開塾以来四年目を迎えますが、皆さんの暖かいご協力とご支援を受けて、一歩一歩確かな実績を作りあげてくることができました。この度、塾活動の一層の発展・拡大を意図して二番目の施設「五右衛門館」を設立することを決意し、建設に取りかかり、完成の日を迎えるに至りました。平成6年7月に設立された屋代村塾本館は、ホールを中心とする55坪ほどの建物でしたが、この度の五右衛門館は33坪ほどの建物で、特徴は御影石使用の五右衛門風呂、三和土作りの土間、ストーブのある板間、囲炉裏のある畳部屋、そして二階には常住できる研修生(スタッフ)用の部屋が設置されています。土間や板間では、わらじ、みの、竹籠、縄などかつて農家で作っていたものを再現する体験学習や、漬物、そば打ちなどの料理講習会が企画されています。布織りなどの体験学習も考えられています。畳の一室には、読書コーナー(ミニ図書館)を設け、囲炉裏の部屋では炭火を囲んで食事や語らいができます。

  五右衛門館の最大の「売り物」は、今は消滅してしまった五右衛門風呂に入って星空を眺めながらのんびり一日の疲れを取る体験ができることです。そのために、薪を作る作業が必要となります。手のかかる作業は楽ではありませんが、日本の伝統的生活文化の良さが実感できるものと思われます。今、町内には五右衛門風呂を作れる職人がいない状況で、この度は、かつて屋代地区で石屋の修業をしたことのある南陽市の薮田重雄さんに特別に作って頂きました。薮田さんは五右衛門風呂職人ですが、30年振りにこのような労働ができたと感激されていました。また、三和土の作業も職人がいないため難しく、和田地区の菊地良一さんの研究成果を生かして頂きました。

  私に対して、なぜこのような施設を作るのか、お金はどのようにして調達するのか、「小金持ち」のぜいたくな遊びではないかなどと質問したり批判したりする人がおります。屋代村塾は「商売用施設」ではありませんから、このような疑問が出されるのは当然でしょう。その時には、私はどんなに借金してでも自分の「思想」と「信念」と「夢」を実現したいから実践していると答えています。これは遊びではなく、私の人生そのものであり、誰かが今こういうことをやらねばならないと思っています。特別な使命感を持っているわけではありませんが、無理してでもやれる人は何かをやるべき時代だと思っているし、自分さえよければと思っていては、また、何をやってもだめだとあきらめていては、結局は自分も他人も良くはならない、むしろ絶望的に暗い時代に陥ってしまうと認識しているのです。さらに、誰かと一緒にやろうとか、行政に任せようとか、誰かの後についていこうと思っていては、何事も始まらない、まず意識した人間が道を開いていくべきと考え、始めたということです。意味のあることをしていれば、仲間は必ず増えていくという確信を持っています。

  私は、今、日本の将来を楽観的に展望することができません。現在の状況が続けば、農業はますます衰退の道をたどるのではないか、環境はもっと悪くなってしまうのではないか、福祉の向上は難しいのではないか、健康に暮らせる社会は実現できないのではないか、人と人の関係は希薄となり、生命が軽視させる状況が進むのではないかと悲観的に考えざるを得ません、何とかなるさと楽観的に生きている人も多く見受けられますが、今ここで、何とか軌道修正を図らないと21世紀はかなり困難な時代に入るような気がします。神戸市の小学生殺害事件はまさしく現代が生んだ悲劇だと思いますし、老人の自殺など暗いニュースが目立ちます。今後もこのような悲劇は数限りなく発生してくるに違いありません。あらゆる問題の根本は同じだと思います。それは、日本の急速な近代化、工業化、都市化の終着点の姿ということです。すなわち、日本人が何百年、何千年をかけて維持してきた稲作農耕文明と生活スタイルがここ一世紀ほどの短期間に破壊され変質し、今では何が大切であるか、何を守るべきであるかを忘れてしまうような状況生み出されてしまいました。そして。生命を大切にしない日本人が作り出されてきたのだと思います。植物や動物を育てたり、生命との豊かな触れ合いの機会を失ってしまえば、荒廃した社会が形成されるのは当然と言えるでしょう。

  モノやカネが増えても、国民の健康を守る食料を他国に依存し、農地を荒廃させ、環境を悪化させる道を歩む国がどうして一流の先進国と呼ばれるのでしょうか。人と人の関係がカネを中心に結ばれ、心や気持ちがどこかに追いやられる近代社会とは本当に豊かな社会なのでしょうか。農業だけでなく、工業も商業も厳しい空洞化に直面し、大競争によって弱肉強食が進む日本の将来はどうなるのでしょうか。今こそ自然と人間、人と人との「共生」が強調されねばならないのではないでしょうか。子供や孫の代まで考え、環境を守り、限られた資源を大切に分かち合う生き方が求められているのではないでしょうか。そうしなければ、環境も健康も資源も福祉も人権も地域も守られないと思います。

  このような「思想」に基づき、私は屋代村塾の活動に今後の人生をかけてみようと思って実践してきました。それは、お金とも名誉とも遊びとも関係ありません。「農滅びて国滅ぶ」の歴史的真実を理解した人間が、明るい未来を生きたいと切望し、ささやかな行動を起こしているだけのことです。農業と工業と商業のバランスある発展を唱え、同時に自然と人間、人と人との共生の大切さを訴えながら、できる範囲で最大限の努力をしたいと願っているだけです。でも、未熟な人間ですので、試行錯誤の連続です。今後とも皆さんのご指導・ご助言をお願いする次第です。

  五右衛門館は多くの人に開放します。私が居ない時でも研修生が訪問者を歓迎してくれるはずです。子供たちから高齢者まで、さまざまな活動がここで可能となるでしょう。読書したり、音楽会を催したり、農体験をしたり、伝統技術を学んだり、郷土料理を作ったり、物々交換したり、懇談したり、合宿したり、遊んだり、人と人の交流の場として多くの人に活用してもらえればと希望しています。ここは伝統技術や芸術、生活文化に関する「伝習・伝承の館」であり、また人と人の「出会い・触れ合いの館」です。ここから新しい共生関係が生まれることを願っています。どうか気楽にご利用下さい。皆さんのお越しを心よりお待ちしております。

                平成9年7月27日   屋代村塾塾長  大塚勝夫
                992−0342 山形県東置賜郡高畠町大字竹の森1742−4
                0238−52−3831
 
 
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